演奏曲をムービーＢＧＭとして使うという私の案に対して、妻は、「自分たちが演奏している姿の映像も入れたら良いのではないか？」と言った。妻は写真を趣味としているので、演奏シーンの撮影もできるとのこと。猫背な私としては、演奏姿までを人前に晒すのは少し気が引けたが、自分たちが演奏している姿もあった方が、誰の演奏かを分かりやすく伝えることができる。提案を受け入れることにした。
ということで、エンディングムービー作成のために必要なタスクは、曲の練習、録音・撮影、ムービーに使うゲストが写っている写真の選定、そして動画編集。それ以外にも、新生活のための引っ越しを進めないといけないし、市民吹奏楽団に所属している妻は演奏会が控えているし、私も秋の文フリに出店する予定があった。そこそこのタスク量だ。ちゃんと計画を立てて進めないと間に合わないかもしれない。
と、今後の計画を検討していたところ、更に妻の一言、
「映像が作れるなら、オープニングムービーも作れるよね」
一瞬、私は息をするのを忘れて、妻の顔をガン見してしまった。
「えっと、今、なんと仰いました？」
「だから、オープニングムービーも作れるんじゃない？」
自分たちが抱えているタスクの量を理解していますか？ 曲を練習するだけでも結構な時間が必要なんですよ。締切だって、そんなに悠長に作っていられるほど長くはないんですよ。
しかし、彼女の楽しそうな表情を見ていたら、「できない」と、にべもなく答えることはできなかった。決して、長年のサラリーマン生活で刷り込まれた、ノーと言ってはいけない強迫観念のせいではない……多分。
まあ、落ち着いて考えてみれば、「ようこそ私たちの結婚式へ」とメッセージを出すくらいの映像なら、ネット上にテンプレがあるだろうから、難易度的にはさほど高くないだろう。結局その場では、余裕があれば作れたら良いね、くらいの気持ちで、「そうだね」と答えただけだった。
ところがしばらくして、彼女は「オープニングムービーのネタを考えてきた」と言って、絵コンテを見せてきた。
仕事早いな！ 絵コンテだなんて本格的な。しかも何気に絵が上手いし。かなりの力作だ。
……って、ちょっと待て。先にそっちかよ！ 演奏付きのエンディングムービーを作ることが一番の目標だったでしょ！
彼女が考えてきたオープニングムービーの内容は、私たちの出会いとこれまでの経緯をドラマ調にして、自分たちで再演するというものだった。出会ってから、いろんなところへ行って、そして今日という日を迎えた、という流れだ。
絵コンテの説明を聞いて、私は目眩がした。
思ったよりも本格的だった。来てくれてありがとうというメッセージと共に、写真を数枚貼ればいいという目論見からはかけ離れていた。演技も必要で、本格的な撮影が求められるという。重い、重過ぎる。とても、時間があれば作ると言っていられるようなレベルではない。それに、自分で自分の演技するだって！ 正直言って恥ずかしい。しかも外での撮影！ 素材集めのハードルも高すぎる。この映像だけで結婚式の準備時間の大半を持っていかれそうだ。
大変だなと思うと同時に、物書き趣味者としての血が騒いできた。こんな力作の絵コンテを見せらたら、黙ってはいられない。
早速、口を出したくなってきた。まず、自分で演技するのは気が引けたので、人が演じる代わりに、人形を使うのはどうだろう？ 結婚式ではよく、ゲスト控室の入り口に、ウェルカムボードと共にペア人形が置かれることがあるが、その人形を使うのだ（人形の候補は決まっている、一部女子になぜか大人気の、キウイをかたどったキャラクターだ）。これなら自分で演技をしなくても良いし、飾りと映像がリンクして、結婚式という一連のイベントにも一貫性が生まれる。また、Photoshopで加工することを前提にしたコマ取りアニメーションにすれば、街中撮影というハードルの高いことをせずとも、室内で撮影ができる。一石二鳥だ。
次に、ストーリー。初案の絵コンテでは、話の山場というか起承転結の転が明確ではなくて、単調に見えてしまった。コロナ禍で会えない時期があってそれをどう乗り越えたか、といった話を付け加えた方が、見ている方も楽しめるだろう。
……って、自分で仕事増やしとるやないかい！！
とはいえ、こうなってしまった以上、作らないわけにはいかない。こうして、本来の目的であった演奏入りエンディングムービー作成そっちのけで、オープニングムービーの作成が始まった。
修正後の絵コンテ
（個人情報に関わる部分は黒塗り。完成映像は一部順序やカットされたシーンがある）